知性と感情の彼方(かなた)
- 行為と言葉と心 -
共催 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
   日仏会館
   日仏東洋学会
日時 平成22年2月20日(土)13:00 〜 18:35
場所 日仏会館ホール
   〒150-0013 東京都渋谷区恵比寿3-9-25
   TEL. 03-5421-7641

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開会の辞 日仏会館フランス事務所代表 マルク・アンベール

 

【古代インドの宗教】
古典インドにおける意欲と知性 - 祭祀、信仰、遊行  
東京外大AA研教授・AA研「総合人間学の構築」プロジェクト主査・日仏東洋学会代表幹事  中谷英明

 

【自閉症のこころを開く】
「自分」と「他人」の境界 ― 「模倣」の不思議な育成力  
フランス国立科学研究機構研究ディレクター  ジャクリーヌ・ナデル  

 

【脳科学】
社会生活における顔認知の重要性
自然科学研究機構生理学研究所教授・「総合人間学の構築」共同研究員  柿木隆介

 

休憩 

 

【利他行為の認知科学】
会話という行為の始原 ― なぜヒトはヒトに語りかけ始めたのか?
フランス国立高等情報通信学校教授・AA研客員教授  ジャン=ルイ・デサル

 

【中国古典】
陶淵明の死生観 ― 形と影と神の対話
京都大学名誉教授・日仏東洋学会会長  興膳 宏

 

【ロシア文学という経験】
共苦と黙過 - 現代日本文学におけるドストエフスキー
東京外国語大学学長・「総合人間学の構築」共同研究員  亀山郁夫

 

閉会の辞 東京外大・副学長 宮崎恒二

 

ビュッフェ(無料) 

総合司会 牧野元紀(東洋文庫・日仏東洋学会)・松原康介(AA研・日仏東洋学会)

 

入場無料・事前登録制(先着150名)

  • TEL 042-330-5603 東京外大AA研全国共同利用係
  • FAX 042-330-5610 氏名・ご住所またはご所属を記してお送り下さい
  • こちらよりお申込み下さい

  • お問合わせ  - 東京外大アジア・アフリカ言語文化研究所 TEL 042-330-5603
    - 日仏会館フランス事務所 TEL 03-5421-7641



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    「古典インドにおける意欲と知性 - 祭祀、信仰、遊行」 中谷英明

     宗教とはなんらかの「装置」を用いて「認識の転換」をもたらすもの、と定義できる。その装置は、神への信仰を勧めたり論理的思索による世界観を説いたりする教理であったり、祭祀、儀礼、音楽、建築、絵画、瞑想、修行であったりと、さまざまである。この定義によれば科学も宗教の一種である。実際、近年初めて特定されたブッダ自身の考えは科学思想と極めて近い。ブッダの思想を古代インド宗教史の中に位置付け、科学思想と対比しつつ特質を明らかにする。そこには遊行という行為を通じて開かれたこころの優れた柔軟さと深い安心が示されている。

     

    「「自分」と「他人」の境界 ― 模倣の不思議な育成力」 ジャクリーヌ・ナデル

     「私」はどこで終わり「あなた」はどこから始まるか?影、鏡像、自意識は、いずれも分身として自己を真似るものであるが、模倣はそれより一歩進んだものである。私たちは互いに模倣し合う時、互いの「写し」であると同時に、互いにそうであるという意識を共有している。私が一つの行為を経験している時、あなたも同じ経験をしているものと感じている。私とあなたの認識は一つであり、私の認識とあなたの行為とを重ね合わせることができる。ここでは、この模倣が作り出す自己の意識と他者の意識の境界の揺らぎを利用した自閉症児に関する一実験を報告する。それは模倣を通じて自閉症児のこころが他者の行為に開かれてゆく過程である。自閉症児にとっては、「人が私になる時、私が始まる」のである。

    「人間の社会生活における顔認知の重要性」 柿木隆介

     顔認知は、言語認知と並んで、人間が社会生活を営む上で最も重要な脳活動の1つである。例えば、自閉症では、相手の目を見ようとしない、相手の表情等から相手の気持ちを推察する事ができない、という点が最も重要な問題の1つとして取り上げられている。近年の神経イメージング技術の急速な進歩によって、人間の脳機能が詳細にわかるようになってきた。平成20年度からは、文部科学省の新学術領域で顔認知に関する研究班が活動を開始している。顔認知に関する最近の知見を紹介し、顔認知を介した社会性についてまとめてみたい。

    「会話という行為の始原 ― なぜヒトはヒトに語りかけ始めたのか?」 ジャン=ルイ・デサル

      ヒトは言語によって友人と感情を共有する機会を決して逃さない。動物も攻撃する時には怒りや恐れなどの感情を表すが、それを第三者と共有することはない。しかしヒトにとっては会話による感情共有は社会関係の必須要素である。それに失敗した者は社会からのけ者にされる。なぜ我々は「友人が我々に対して心を開いてくれる必要がある」のであろうか?またなぜこの認識的な開放性は信頼されるのであろうか?それはヒト化の過程におけるある種の政治的要請に応じて現れた、と私は考えている。

    「陶淵明の死生観 ― 形と影と神の対話」 興膳宏

     中国六朝の詩人陶淵明(365~427)に、「形影神」と題する三首連作の詩がある。これは「死」をめぐる形(肉体)とその分身である影、そして神(精神)の対話形式になっている。作者は三者それぞれに自分の考えの一部を代弁させながら、揺れ動く死生観を語っている。この詩を中心として、自己の内面を客体的に凝視する他のいくつかの作品も視野に収めながら、陶淵明の異色ある思考のかたちを考えてみたい。

    「共苦と黙過 - 現代日本文学におけるドストエフスキー」 亀山郁夫

      現代の日本文学は、新たなドストエフスキー回帰の傾向をはらみつつある。1972年の連合赤軍事件以来、1995年のオウム真理教事件、2001年のナインイレヴン、さらには、昨年6月の「秋葉原通り魔事件」など、事件のスケールを問わず、歴史的な節目ともいうべき事件が起こるたびに、ドストエフスキーの小説は、いわばその参照項として言及されてきた。今回の報告では、「共苦」と「黙過」をキー概念としながら、村上春樹(「1Q84」)と高村薫(「太陽を曳く馬」)の二人の最新作を中心に、日本の現代文学においてドストエフスキーの作品がどのような影響をもたらし、どのような再生の契機となりつつあるのか、を考えたい。

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    柿木 隆介(かきぎ りゅうすけ)
    1953年生れ。九州大学医学部卒業。神経内科専門医。ロンドン大学等を経て、1993年より生理学研究所・教授。脳波、MRI等を用いて人間の脳活動、特に顔認知機能の研究を行っている。編著に緒方宣邦、柿木隆介:「痛みの基礎と臨床」、真興交易出版など。最近は「ためしてガッテン」、「世界一受けたい授業」等、テレビ出演も旺盛に行っている。

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    亀山 郁夫 (かめやま いくお)
    1949年生れ。東京外国語大学学長。専門はロシア文化・ロシア文学。東京外国語大学外国語学部ロシヤ語学科卒、東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。NHKハイビジョンスペシャル、『視点・論点』、ETV特集などに出演し、ソヴィエト時代の芸術や文化、ドストエフスキーについて精力的に論評を行っている。『カラマーゾフの兄弟』、『罪と罰』の新訳は大きな反響を呼んでいる。

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    興膳 宏 (こうぜん ひろし)
    1936年生れ。京都大学名誉教授。京都大学文学部卒、同大学院博士課程中退。「中国の文学理論」で京大文学博士。京都大学文学部教授、文学部長を経て、京都国立博物館長を務めた。東方学会理事長。日仏東洋学会会長。『乱世を生きる詩人たち:六朝詩人論』研文出版、『中国名文選』岩波新書、『中国文学理論の展開』清文堂出版、『杜甫:憂愁の詩人を超えて』岩波書店など著書多数。

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    DESSALLES, Jean-Louis (デサル、ジャン・ルイ)
    1956年生れ。フランス国立高等情報通信学校教授、AA研客員教授、名門理工科学校(エコール・ポリテクニーク)卒。専門は認知言語学、コミュニケーション起源論。Why We Talk – The evolutionary emergence of language (2007). Oxford University Press, Aux origines du langage : Une histoire naturelle de la parole (2000).Hermès sciences. ほか多数の著書がある。

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    中谷 英明(なかたに ひであき)
    1947年生れ。京都大学文学部卒。パリ大学博士。ストラスブール大学准教授などを経て東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授。専門はインド仏教学、中期インド語学、総合人間学。著書にUdānavarga de Subaśi. Collège de France (Paris)、編著に『古典学の再構築』(8巻)、『総合人間学叢書』(4巻)。東方学会評議員。日仏東洋学会代表幹事。「総合人間学の構築」プロジェクト主査。

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    NADEL, Jacqueline (ナデル、ジャクリーヌ)
    フランス国立科学研究機構(CNRS)研究ディレクター。パリ大学博士。専門は発達心理学。理化学研究所脳科学総合研究センターのサマープログラム2009招聘講師。編著に、Nadel J. Butterworth, G. (Eds.). Imitation in infancy. Cambridge University Press. 1999, Nadel J. Muir, D. (Eds.). Emotional development: Recent research advances. Oxford University Press. 2005等。

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