調整班研究概要
 
 A01 原典  B01 伝承と受容(世界) 
 A02 本文批評と解釈  B02 伝承と受容(日本)
 A03 情報処理  B03 近現代社会と古典
 A04 古典の世界像  


●調整班研究A01「原典」
    (調整班代表 池田 知久)
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研究目的
 古典学全体の中で原典研究は最も基礎の位置を占める。その意味で本領域研究「古典学の再構築」の中でも本調整班研究A01「原典」の研究は特に重要である。

  1. 研究目的の第1は、原典をとりまく状況はそれぞれの文明によってまちまちであるが、各文明(中国、日本、南インド・タミル、チベット、チャガタイ・トルコ、ペルシアなど)における原典の状況を把握しその結果を報告して広く研究者・市民に知らせることであり、このような活動の中でそれらの共通性と相異性を文明横断的に明らかにすることである。

  2. 研究目的の第2は、過去半世紀間に進展した各文明における原典研究(校訂・注解・方法論など)を当該文明の中で総括すると同時に、古典学全体に対しても諸文明の研究の相互理解を通じて大局的な総括を行い、以上の中から来たる21世紀の新たな古典学の方向を見出すことである。また、古典学の研究成果を研究者や民間に対してオープンにするという意味で分かりやすく親しみやすい古典の日本語訳を作る方向を模索することである。

  3. 研究目的の第3は、古典が伝承されてきた形態である口承と書写について、各文明の内部におけるその種類・特徴などの研究を進めるとともに、その研究成果の上に立って原典形成の実際の姿を文明横断的に考察しながら、一般的な原典形成の理論の確立を目指すことである。以上の3点は定期的な研究会議を開いて追求していく。

  4. 研究目的の第4は、各研究が諸原典の写本・版本の所在を実地に調査し、電子機器などを用いてそれらの複写・データベース化に努め、各テキストの比較検討・批判的校訂などの作業を進めるが、「原典」班としては共同利用の機器などを購入してそれらの作業を督励することである。インド・チベットなどのように、現代に至るまで研究されることなく民間に伝承されてきた多量の写本が今まさに滅びようとしているという危機的な状況も存在するが、可能であればそれらの保存や購入の方策を講ずることも考えたい。

研究計画・方法

  1. 年3回の研究会議を開き上記「研究目的」の第1〜第4について研究を進める。そのためにやや多額の国内旅費・謝金・会議費が必要となる。本年度は次の2点に重点を置く。――「研究目的」第2の、過去半世紀間に進展した各文明における原典研究を総括するとともに、古典学全体に対しても大局的総括を行い、その中から21世紀の新たな古典学の方向を見出すこと、及び「研究目的」第3の、古典が伝承されてきた形態である口承と書写について研究を進めるとともに、原典形成の実際の姿を文明横断的に考察しながら一般的な原典形成の理論の確立を目指すこと。以上のために、海外に10日間程度の調査・研究旅行を延べ1回行う。

  2. 役割分担は、池田が全体の統括と中国古典学、五味が日本古典学、高橋が南インド・タミル古典学、間野がチャガタイ・トルコ語、ペルシア語の古典学、御牧がチベット古典学をそれぞれ担当する。本「原典」班に欠けている西洋・朝鮮・イスラエルなどの古典学については各1名の専門家を招聘して意見を聞く(計約3名)。そのために若干の謝金が必要である。研究会議においては研究代表者・研究分担者の全員が輪番で専門に基づいた報告を行い、その成果はレポートにまとめて印刷し「古典学の再構築」のニューズレターなどに掲載する。

  3. 「研究目的」第4に沿って高性能のデジタルカメラ及びその周辺機器を購入して、テキストの蒐集やその電子化などを進められるようにする。

  4. 「原典」班に関わる諸般の事務を処理するために、随時アルバイト職員を委嘱して働いてもらう。そのために若干の謝金の支出を予定している。


●調整班研究A02「本文批評と解釈」
     (調整班代表 関根 清三)
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研究目的

 1. 調整班研究「本文批評と解釈」の主研究目的は、中国・インド・イスラエルの古典学を中心に、日本・チベット・イスラム・西洋などの古典学とも連携して、本文批評と解釈の新しい理論と実際を提示することである。過去2年間は6回の研究会を催し、それぞれの分野の研究の現況について情報交換をして有意義であったが、第3・4年度はそれらの研究会を継続開催すると共に、その成果を踏まえて、『講座古典学』の一巻に集約発表して行くことに主力を注ぎたい。

研究計画・方法

  1. 方法論的反省と展望:具体的には2. 方法論的反省と展望について、今までの発表を元に各分野ごとに纏め、比較検討したい。


  2. 解釈の現場の呈示と意味論的比較研究:また3. 解釈の現場の呈示と意味論的比較研究を、2. の方法論的研究の実際の適用として『講座古典学』に発表して行きたい。愛・正義・空・罪・神等々のキーワードが、それぞれの分野でどう解されているか、実際の古典テキストの解釈の作業を手の内を明かしながら呈示することによって、比較考察したい。そうした研究によって方法論をより精緻に反省すると共に、古典が現代人に語りかける可能性とその使信の核心を探索することができればと思うのである。

  3. コンピューターの総合的な利用法:加えて、4. コンピューターの総合的な利用法について、専門家の説明会なども開催しつつ、よりネットワーク構築に力を注ぎたい。さらには5.国際的なネットワークの構築までも視野に入れ、2001・02年9月日本での国際シンポジウムでの討論を中心に、機会あるごとに国際的な学会や学会誌での発表、英独仏語での論文や著書の上梓に努め、国際学界との交流・共同研究を積み重ねて行きたいと考えている。


●調整班研究A03「情報処理」
     (調整班代表 徳永 宗雄)
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研究目的

 ディジタルテクノロジーの急速な発達にともない,人文学の領域でもコンピュ−タを利用した研究が日常化しつつある。古典研究においても事情は同じで,ディジタル資料の蓄積が進むとともに,これを使った研究がこれまでには見られなかったタイプの研究成果を挙げつつある。しかし,一方では,当然情報処理の技術を用いるべきような分野においても技術の修得の困難さなどから利用の進んでいない面があるし,また,利用している場合でも研究者各人がそれぞれ異なった仕方でコンピュータを使用していて,十分な情報の共有が実現していないのが実情である。

 このような状況を打開するために,古典学における情報処理技術の普及と共有,基本的データの共有のための基盤の整備,古典学に必要な新たな情報処理技術の開発のためのニーズに関する情報の取りまとめなどを本調整班の研究の目的とする。

 特定領域研究「古典学再構築」のための情報ネットワークを提供し,情報インフラストラクチュアとしての役割を果たす,という前期3年間における役割は,総括班の広報委員会による独自のサーバ(http://www.classics.jp)の立ち上げによって,ftpサービス以外の部分はそちらに移行することとなった。
古典文献のデジタル化をすすめ,文献データベースの作成を促進する必要性は,相変わらず極めて高いものであるが,本調整班の予算は限られたものであるので,予算の許す限りで限定的に推進していく予定である。

研究計画・方法

 デジタル技術の古典学への有効利用を促進するため,「古典学研究のための情報処理概説」とでも仮題できる,従来,文献学徒への手引書類が稀である統計処理,文献翻刻とデータ表現形式,文字列処理,文字コード等の問題を扱い,単なるマニュアル・ハウツー本ではなく,思想のある,基礎から学べる書籍を出版するための研究・執筆・編集作業を行う。

 「オンライン国際共同研究」などを可能とするような新たな情報技術に必要な仕様についての討論を行い,XML等の技術において古典学研究のためには不足している点を明らかにして,古典学に必要なデータ表現形式の新たな仕様の策定につなげることを目指す。

 また,本調整班の計画・公募研究のみでなく,「古典学再構築」全体の研究者にも開かれた研究集会を開催して,できる限り情報処理技術の共有のための機会をもうけていく予定である。

古典文献のデジタルテキスト化に関しては,インド古典文献の電子化を予定している。


●調整班研究A04「古典の世界像」
     (調整班代表 内山 勝利)
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 全世界の多様な古典世界の各領域の緊密な連携に立って、それぞれの文献学的成果を集約しつつ、古典作品を媒体として、極力新たな視点からそれを捉え直し、「現代に生きる古典」としての新たな可能性を引き出すことを目指すものとする。

 今般の特定領域研究においては、これまで各領域ごとの古典研究において蓄積されてきた成果をふまえて、領域横断的な比較と、より高次の総合との試みにはじめて本格的に取り組もうとするものである。従来ややもすれば、各古典領域は、それぞれに完結した世界として扱われ、他の領域については、必要なかぎりにおいての一面的・間接的な理解にとどまりがちであった。しかし、きわめて広範な諸分野において、いずれも高度な水準にある研究者と研究成果を有するという、希有な状況に恵まれたわが国において、それらの間の有機的な連携を図り、成果を相互につきあわせることによって、全く新たなインターディシプリンの可能性がさまざまに生起することが期待され、すぐれて重層的な研究の展開が期待される。特に、これまでの各分野ごとの研究においては手薄にならざるを得なかった各古典領域の周辺部分や相互の交渉・影響・伝承関係などの解明に、飛躍的な進展が望まれる。またその成果は、固有の各古典研究そのものにとっても、きわめて大きな意義をもたらすものであることは言うまでもないだろう。

 われわれの調整班は、こうしたはじめての試みを効果的に遂行するために、具体的な共同研究を通じて方法的基礎を確立することに努めるものとする。これまで2年間以上にわたり研究会を重ねつつ、古典世界を共通の基盤にのせて、真に有意義な比較・総合を行いうる場と具体的手続きを再検討する作業をつづけてきた。その間、研究班員相互に固有の研究に精通しあうとともに、そうした見通しの立ちうる問題をめぐる共同研究・討議を通じて、同時に方法的一般化への有効な示唆を探ることに一定の成果を得てきた。

 本年度も3回の全体研究会と2回程度の研究打合せ会を予定し、研究発表と討論の積み重ねを通じて、共同研究成果としてまとまりのあるものとすることを目指す。各回とも数名の発表者による研究発表とそれにもとづく討論を行うもので、今後は共通テーマを設定することで、さらに分野横断的研究への可能性と方法を具体化することにも努める。中心的なテーマとしては、国家と宗教、自然観と技術観、人間論、言語論、時間・空間論などが念頭に置かれているが、当面の重点課題としてまず「魂」論を取り上げる。各古典領域においてこの問題をめぐる特色ある論点の提示や相互比較論にもとづいた討論を通じて、議論のさらなる展開と視野の拡張を期するものとする。議論はおのずから人間観や死生観などに及び、現代世界における緊要な課題とも接点をもったものとなろう。また、これと並行して、複数領域にまたがる相互交渉・影響・伝承関係などに関わる研究課題を適宜設定し、比較的小さな必要規模でのグループ研究の活性化にも努めるものとする。さらに、特定課題を設定した小レポートの持ち寄りと、それにもとづく意見交換も、ひきつづき組織的に行っていく予定である。

 これらの成果は、随時ニューズレター『古典学の再構築』に中間報告的に公表していくとともに、さらなる相互検討を重ねたうえで、『研究論集』的な著書のかたちでの出版・刊行を目指している。また、期間中のいずれかの機会に、当調整班として独自の「シンポジウム」を企画開催するものとする。


●調整班研究B01「伝承と受容(世界)」
     (調整班代表 中務 哲郎)
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研究目的

 「古典学の再構築」という共同研究を遂行するに当たって,言うまでもなく最も重要なことは,古典を正しく読み解釈することである.しかし,古典文献には断片の形でしか伝わらぬもの,オリジナルから大きく歪められて伝えられるものが多いので,原典批判と並んで伝承と受容の研究が必須の基礎となる.また,伝承と受容といってもその意味するところは文明圏によってかなり相違している.そこで本調整班研究は,

(1) 古典の伝承の実態を把握することにより,古典を理想的な形で次代に伝え,

(2) 各文明における古典受容のあり方を比較研究することにより,各文明の特質を明らかにすると共に,

(3) 従来の各分野内で完結していた研究法に反省を加え,異分野横断・文化横断の新しい古典学を構築することを目的とする.


研究計画

  1. (13年度) 11・12年度に引き続き,各分担者の個別の研究課題を遂行しつつ,後半からはその総合作業に移る予定である.即ち,中務はイソップ寓話が古典期からヘレニズム期,古代末期にかけてどのように引用・言及され変容を蒙っていったかを個々の話に即して考察する.西村はユスティニアヌス帝の「学説彙編纂」が法の安定に如何なる意義を持ち得たか,いかにしてヨーロッパ統一法の基礎になり得たかを考察すると共に,将来東アジアの共通の法制定のための共通基盤たりえるかどうかの展望も試みる.丘山は「阿含経典」等の翻訳に従事すると共に,インドの仏典が漢字文化圏に受容される際に生じる様々な問題点について考察する.大月はビザンツ諸皇帝の文芸振興政策により,いかにして古典が創造され,国家統治において効力を発揮したかを考察すると共に,「キリスト教世界の統括者」を自認するビザンツ帝国が,ギリシア・ローマの古典の仲介者として果たした役割についても考察する.

  2. (14年度)本調整班に加わる計画研究・公募研究の成果が参加者に伝わるよう配慮すると共に,領域横断・文化横断的な古典学の方法について議論できるよう,研究会・発表会を組織し,「古典学の再構築」計画に対する「伝承と受容」班からの貢献を総括する.


●調整班研究B02 「伝承と受容(日本)」
     (調整班代表 木田 章義)
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 外国文化は常に日本文化の変容と充実のきっかけとなり、日本文化は外国文化の消化と吸収を通じて、その形を大きく変えてきている。特に、中世は、中国・朝鮮・西欧の各種文明が日本に流入してきた時代であり、それぞれの国での日本研究もすすみ、日本に於ても、世界に目を見開いた時代である。つまり、中世は世界の中の日本という位置が明確に現れる時期である。この中世の外国文化との接触については、中国禅宗の文化の影響、朝鮮の文化の影響、キリスト教を中心としたヨーロッパ文化の影響など、それぞれの分野で研究が積み重ねて来ている。しかし、研究者の数が少なく、それぞれの分野全体が明らかになってはいない。特に、禅宗とともに勃興した五山文化が日本の文化に与えた影響は、日本文化の根底にまで至っており、その研究範囲は非常に広いものになる。朝鮮文化の影響についても、総合的な検討は未だなされていない。キリシタン資料については、基本的な文献的研究の積み重ねの段階である。これらの中世における外国文化の影響を総合的に扱った研究もほとんど皆無に近い状況である。これらの各方面に関しては基礎的な研究だけでも緊急に進めてゆく必要がある。本調整班で中世に重点を置いているゆえんである。

 中世以前と以後についても、検討すべき問題は多い。

 奈良から平安時代に掛けては、中国文学・文化がどのように影響を与え続けてきたか、また律令制度をはじめとする中国の制度が日本の社会にどのように受け入れられてきたかなども明らかにしておく必要がある。

 中世以降、受容された各種文化がどのような形で日本で消化されていったのか、あるいはどのような点が捨てられていったのかという問題は、日本文化の特徴を探る上で注目すべきテーマである。さらに、幕末から顕著となる、ヨーロッパ文明の影響は、日本の外国文化の受容史を論じる上でも、また、近代日本の思想・文化の形成過程を明らかにするためにも、十分に検討して行かねばならない。

 各研究班では、以上のような観点に立ち、それぞれの班独自のテーマを扱う。調整班としては、四回の調整班会議を開催し、会議における討議を通じて、相互の意志疎通ができあがってから、研究分野の重複を避け、不足分野を補うなどの調整を行う予定である。

 本年度、もしくは来年度には、シンポジウムにおいてこれらの問題を取り上げる予定である。その討議の成果を利用して、「日本における外国文化の受容(仮題)」というテーマで、外国文化の受容の一貫した歴史を、一冊の本にまとめる準備を始める計画も立てている。


●調整班研究B03「近現代社会と古典」
     (調整班代表 月村 辰雄) 
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研究目的

 平成11〜12年度において,本調整班はヨーロッパにおける古典の役割を研究テーマに据え,歴史的にどのような形でその古典が受容されてきたのかを検討した。メンバーに多少の変化を生じた平成13〜14年度の本研究は,その成果を受け継ぐ形で,古典の受容という側面の中でももっとも重要な古典教育の諸問題に照準を合わせて研究を進める。ただし、本研究は古典学それ自体の展開を目指すものではなく,古典学の社会への貢献のための基礎作業を担うものである。その研究の特性上,古典学にたいする批判的な議論をも吸収・検討し,それを古典学にフィード・バックさせることによって,古典学自体のより一層の強固な基礎付けに寄与することをめざす。

研究計画・方法

  1. 第一に,基礎作業として,今日,世界の諸地域で古典がどのような取り扱いを受けているかを明らかにする。具体的には,各地域ごとの古典をめぐる議論を調査・検討することにより,それぞれの地域の論点を整理し,ついでそれらを相互に比較・検討することにより,現代における古典の役割についての議論を進める。

  2. 第二に,その考察を踏まえて,世界の諸地域で,中等・高等教育のレベルで古典がどのように教えられているか,その実態を明らかにする。実地に教育の実態を調査することはもちろん,そのかたわらで現実に教育に携わる教員を招き,日本の教員をまじえた上で討論その他の手段により,古典教育の内容のみならず古典教育の理念についても深い議論の対象として把握を試みる。

  3. 第三に,これら世界の諸地域の古典教育の実態を踏まえた上で,あらためて日本の古典教育を検討する。本特定領域研究に参加する日本古典の研究者たちの協力をあおぎつつ,今後の古典教育のありうべき姿について、および古典教育が教育全般に対してなしうる貢献の可能性について考える。